雲見温泉「又五郎」

福永武彦に「海市」という小説があった。蜃気楼を見にいく絵描きが雲見で素晴らしい女性と出会うというところから話は始まる。海市とは蜃気楼のことである。かつては絵描きがよく出かけたところが雲見でもある。
さらにその昔は秘境であり、陸路からの接近はできなかった。したがって、流刑地として多くの政治家や宗教家達が流されたところでもある。
いまでも東京から一番行きにくい伊豆ではなかろうか。
そんなところに行ってみた。
温泉民宿「又五郎」。海に面した小さい入江にその集落はある。入江の海からの入り口に防潮堤がある。ちいさな漁師の集落である。人口は何人なのだろう。百人はいるのだろうか。小学校はなくスクールバスがくると聞いた。
民宿はすべて漁師によって営まれているのだろう。そして温泉も湧泉する。塩分の強い湯質である。湯量も少ない。加温もしている。だから湯船も小さい。悲しくなるような集落だ。
しかし、食材は豊富だ。伊勢エビ、鮑、栄螺、季節により鯛、鮃、金目鯛、魴鮄、カナガシラといった上質な魚類が捕れるところだ。だからこういったところにも人は住み着いたのだろう。
食事は海産物の百貨店だ。さまざまな海産物が並ぶ。魚好きにはこたえられまい。
朝から、大きな煮魚が供される。しかし鮮度の良すぎる魚には煮魚は味付けが難しい。とにかくこうやって海産物を朝夕と供されると、植物に対する嗜好が刺激されてしまうのはなぜなのだろうか。

雲見温泉又五郎
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